AI社会の実現へ。NICTが6Gに求められる「多数接続性能」を実証! 〜量子コンピュータを利用した同時通信に成功〜

威能 契 インプレスSmartGridニューズレター編集部

2026年2月16日 (月曜) 17:52

AIロボットやドローンが街中で稼働し、自動運転車が日常的に行き交う。んな次世代のAI社会を支える通信基盤「6G」の開発が着々と進められている。国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT注1)は2026年1月15日、量子コンピュータ技術を活用し、多数のデバイスからの信号を正確に分離・検出する実証実験に成功したと発表した。本記事では、この新技術の内容と、それが切り拓く未来の社会像を展望する。

次世代6Gに求められる通信技術を量子コンピュータで実証

 NICTが発表したのは、6Gの実用化に向けた革新的な信号処理技術だ。量子力学の原理を用いる「量子アニーリングマシン」と、従従来型コンピュータ(NICTは「古典コンピュータ」と称している)を組み合わせた「ハイブリッド型信号処理手法」(図1)を用い、屋外での通信実証に成功した。
 実験は、屋外に設置された4本の受信アンテナをもつ基地局で行われ(図2)、ドローンやロボット、XR注2機器など10台のデバイスから同時に送信される信号に対し、量子アニーリングを活用して計算を行うことで、誤り率ゼロでの信号検出・分離に成功した。

 既存の5G技術では、同一の周波数と時間において、アンテナ1本につき1台の端末しか通信できなかった。しかし、6Gでは同時多数接続が不可欠となる。今回の技術は、複数の端末が同時に発信した混信状態の電波から、各信号を正確に切り出し、通信が行えるようにするものだ。これまで理論上の研究や室内実験が主だった量子技術を、不安定な屋外環境で運用し、その実用性と信頼性を証明した。これによって、6G技術の開発がまた一歩、実現に近づいたといえる。

図1 量子アニーリングマシンを「古典コンピュータ」にハイブリッドした新たな信号処理手法

図2 NICTで実施された屋外における電波発射実験の様子

1 ㎢あたり1,000万台以上の「超多接続」を目指す

 6Gは、5Gの後継として2030年頃の導入が目指されている。そのコンセプトは、スマートフォン中心の移動体通信から、AIなどサイバー空間とそれが稼働する実際のフィジカル空間(現実世界)を完全に融合させる「超多接続」と「超低遅延」の通信インフラ構築にある(図3)。国際電気通信連合(ITU-R)の目標では、6Gの接続デバイス密度は5Gの10倍以上にあたる、1k㎡あたり1,000万台以上が掲げられている。
 この目標設定は、例えば、物流や農業、災害対応などで狭い空域を数十機のドローンが密集して飛行し、リアルタイムGPSなどのデータを送受信できるような通信環境の構築が想定されている。
 また、工場において数百台の産業用ロボットが相互通信によって、ミリ秒単位の精度で複雑な作業を分担したり、道路上では自動運転のコネクテッドカーなど無数の車両が、位置情報や周囲の状況認識データを常時やり取りしたりしながらの走行も可能となる。そのような次代の社会課題の解決や新たな価値創造につながる通信基盤となるべく、6Gの開発が進められている。
 この環境では、各デバイスから基地局へデータを送る「上り回線」の負荷が激増する。6Gでは、同時接続台数を増大させるために、デバイス局間の干渉を許容する「非直交多元接続」(NOMA:Non-Orthogonal Multiple Access)が前提とされており、「どのデバイスがどの信号を送ったか」を特定する必要が生じる。
 例えば、デバイスが8台で、それぞれが4種類の信号を送る場合、考えられる組み合わせは4の8乗(=48)、つまり約65,000通りになる。この中からデバイスと信号の正しい組み合わせを瞬時に見つけ出すことが新たに求められている。接続数が増えるほど、やり取りされるデバイスの信号の組み合わせパターンは指数関数的に増加し、従来のコンピュータでは処理が間に合わなくなる。

図3 サイバー空間とフィジカル空間の融合イメージ

出所 総務省、「総務省における情報通信技術戦略」2ページ


注1:NICT:National Institute of Information and Communications Technology
注2:XR:エックスアール。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)など、現実世界と仮想空間を融合させる技術の総称。
注3
QAM:Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調。位相と振幅を組み合わせてデータを表現する変調方式。例えば、すでに4Gや5Gで使用されている16QAM(=1シンボルが情報4ビットを伝送=24)、64QAM(同じく情報6ビット=26)、256QAM(同じく情報8ビット分=28)などのように、多値度が高いほど1シンボルあたりのデータ量が増え、高速伝送が可能になる。
OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing、直交周波数分割多重。多数の直交するサブキャリア(データを運ぶ基本単位である最小の周波数帯域。搬送波)にデータを並列に分割して伝送する方式。高速通信や周波数利用効率の高さ、マルチパス耐性〔ビル等で反射した電波(マルチパス波)が原因で生じる通信の干渉や測位誤差に対して、システムが正常に動作し続ける能力のこと)が特徴。
OFDMマッパー:OFDM Mapper。OFDMにおいて、送信データ(ビット列)を、周波数軸上の複数のサブキャリア(搬送波)へ割り当てる処理(マッピング)を行う装置。
CP:Cyclic Prefix、サイクリック・プレフィックス。OFDMシンボルの後ろ側の一部をコピーし、先頭に付加する「ガードインターバル」(ガード区間:信号が正しく受信できるように設けられた短い通信区間)の一種。
SQA:Simulated Quantum Annealing、シミュレーテッド量子アニーリング。量子アニーリングコンピュータの計算アルゴリズム(計算手順)を疑似的(シミュレーテッド)に従来のCPUやGPU等の古典コンピュータで実現する方法。

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