高電圧の使用と2重3重の安全対策
〔1〕3つの安全対策
このような構想は、NTTデータ先端技術において10年ほど前から研究されてきたが、最大の問題は、DC200〜DC400Vと高電圧を使用するようになるため、安全性の保障に難しい面があったことである。すなわち、高圧のため感電によって死に至ることが予測されていた。
そのため、図5に示すように、2重3重の安全対策が施されている。
- 安全①:感電・地絡防止(中点アース)
- 安全②:アーク対策(火花防止対策)
- 安全③:DC12Vバスバー注5
これによってDC12Vを精度よく、安定かつ安全に供給することが可能となる。
図5 HVDCにおける安全対策技術
〔2〕技術的な課題と解決
ここで、HVDCシステムに導入された「安全①の感電・地絡防止(中点アース)」について見てみよう。
高電圧環境では、プラグを入れたり(差し込んだり)抜いたりする際に、雷のようにアーク(火花)が出たりする。このため、直流の高圧環境で物理的なプラグを外そうとしても、なかなかすぐには外れない。
交流の場合には、必ず電圧・電流の波形にゼロ点があるので、アークは比較的容易に抑えられるが、直流の場合はゼロ点がない。このため、直流ではプラグを抜き差しした場合に火花が出るなど、その部分が命にかかわるほど非常に危険なのである。すなわち、安全性のコントロールに関しての技術的な課題があった。
〔3〕高電圧DC340Vを
プラス170Vとマイナス170Vに分割
この課題の解決のために、図6のPS(Power Supply)ラックとPDU(サーバラックへの配電用電源コンセント)を結ぶラインの間に、安全①に示した感電・地絡防止(中点アース)回路を挿入、すなわちこの部分に中間接地アースという考え方を導入したのである。
従来は、「ゼロと340V」や「ゼロと400V」の間でアースをとっていたが、この340Vを「マイナス170V」、「プラス170V」というように2つに分けて、(0〜+170Vと0〜-170Vで)挟み込んだ電源・電圧の回路をつくってしまったのである。これによって、運用する電圧がDC340からDC170Vと半分の電圧とすることができた。
このように、図6の安全①では、アークあるいはショート(短絡)が起こった際にも、そこに大電流を流さないで済むように安全性を確保する回路(340Vに比べて170Vは半分の電圧)を実現し導入したのである。この回路は、前述したNTTデータ・イーエックステクノが開発したものを適用している。
図6 既存の設備へのHVDCシステムの導入ステップ
〔4〕周波数の整合性の課題
また、前出の図3の上部回路の交流の部分では、いわゆるUPSと言われるスイッチがあり、商用電源が停電すると電池に切り替えて電力を供給することになる。しかし電池(直流)に切り替えても、その先のSTSやPDU、ACサーバラックなどはすべて交流で受けるため、電池から出てきた直流は、再度、交流に変換することになる。
このとき、もともとシステムに入ってきている入力(6000V)の交流の周波数と、STS・PDU部で交流に切り替えたときの周波数を、ここで合わせなければならない。このように複雑なスイッチが必要となるのである。
ところが直流の場合には、このような切り替えは不要であり、信頼性を圧倒的に高くすることが可能となる。
〔5〕集中電源の開発
さらに、もう1つの工夫としては集中電源が開発されたことである。
NTTデータ・イーエックステクノ時代は、図3の下に示す整流器でDCに変換した直流を直接サーバに入れようとした。ところが、その方法では、サーバベンダやストレージベンダが対応しきれない。その理由は、今まで(図3の上部)AC100V/200Vの交流電源を受電して、サーバラックの中でAC-DC変換しDC電源を確保しているからだ。そこを図3の下図のように、効率を上げるためとはいえ、340Vにもう一度置き換えて受電するのは面倒なことであり、コストもかかる。そこで、図3に示すサーバラック用に、集中電源を開発したのである。
この集中電源の入り口では、図5に示すように、DC380VあるいはDC340V(NTTデータ先端技術は340V)で受電するが、これをもう一度、集中電源内でサーバの動作電圧であるDC12Vに落とす(降圧する)。すなわち、この集中電源内のDC-DCコンバータが電圧変換(DC340V ⇒ DC12V)を集中的に行い、そのDC12Vを複数のサーバに配分するような形とした。サーバラック1台当たりの容量は2kW程度となっている。
このような、既存の設備からさまざまイノベーションを経たHVDCシステムの導入によって構築されたサーバラックシステムを図6に示している。
▼ 注5
バスバー:Bus Bar。電源などで各装置が共通に接続する導体棒。